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仙台地方裁判所 昭和51年(わ)481号 判決

旧本籍

韓国釜山市西区西大新洞二街四四二番地

住居

宮城県多賀城市中央二丁目一五番二〇号

会社役員

安藤秀雄こと

朱尚烈

大正一〇年六月二五日生

本店所在地

仙台市一番町四丁目一番一三号

法人の名称

三星観光株式会社

代表者

代表取締役 安藤秀雄こと 朱尚烈

右朱尚烈に対する所得税法違反、法人税法違反、三星観光株式会社に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官渡部惇出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人朱尚烈を懲役六月及び罰金三〇〇万円に、被告人三星観光株式会社を罰金四〇〇万円に処する。

被告人朱尚烈がその罰金を完納することができないときは金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人朱尚烈に対しこの裁判確定の日から三年間その懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人安藤秀雄こと朱尚烈は給与所得者であるほか、自己の営業名義で許可を受け、塩釜市港町二丁目八番五号において特殊浴場(「トルコ風呂」のこと以下同じ)「トルコスター」を、また、妻李鳳仙の営業名義で許可を受け、仙台市本町一丁目一〇番三二号において特殊浴場「トルコ東京」(昭和四九年一二月二日営業名義人李鳳仙死亡により事業廃止)を、それぞれ経営し、その業務全般を統括していた者であるが、自己の所得税を免れる目的をもつて、従業員に指示して原始記録を破棄するなどして収入の一部を公表帳簿に計上しないで除外し、更に架空経費を計上するなどの不正手段により自己の所得金額を秘匿したうえ

一  昭和四八年分の自己の実際の総所得金額が一、三一五万五、二〇三円で、これに対する所得税額が四四八万三、六〇〇円であつたにもかかわらず、昭和四九年三月一五日、塩釜市旭町一七番一五号所在所轄塩釜税務署において、同署署長に対し、自己の同年分における総所得金額が二七〇万八、七〇五円で、これに対する所得税額が一〇万四、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額四三七万九、六〇〇円をほ脱し

二  昭和四九年分の自己の実際の総所得金額が二、四三三万二、二六八円で、これに対する所得税額が九四八万四、四〇〇円であつたにもかかわらず、昭和五〇年三月一一日、前同署において、同署署長に対し、自己の同年分における総所得金額が九五六万二、〇六二円で、これに対する所得税額が二〇六万一、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出しもつて同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額七四二万二、五〇〇円をほ脱し

第二  被告人三星観光株式会社は、仙台市一番町四丁目一番一三号に本店を置き、同所において特殊浴場「トルコ大奥」を経営する株式会社であり、被告人安藤秀雄こと朱尚烈は、被告人会社の代表取締役であつて、同会社の業務全般を統括している者であるが、被告人安藤秀雄こと朱尚烈は被告人会社の業務に関し法人税を免れる目的をもつて、経理担当者に指示して原始記録を改ざんさせるなどして収入の一部を公表帳簿に計上しないで除外し、これによつて得た資金を架空名義又は無記名の定期預金とするなどの不正手段により被告人会社の所得金額を秘匿したうえ

一  昭和四八年四月一日から同四九年三月三一日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が二、四九五万二、五七九円で、これに対する法人税額が八九〇万七、三〇〇円であつたにもかかわらず、同四九年五月二八日、仙台市中央四丁目五番二号所在所轄仙台中税務署において、同署署長に対し同会社の右事業年度の所得は欠損でその欠損金額が四六一万二、九三六円である旨の虚偽の法人税の確定申告書を提出しもつて同会社の右事業年度の正規の法人税額八九〇万七、三〇〇円をほ脱し

二  昭和四九年四月一日から同五〇年三月三一日までの事業年度における同会社の実際の所得金額が五、八二八万三、二五五円で、これに対する法人税額が二、二五九万三、二〇〇円であつたにもかかわらず、同五〇年五月三一日、前同署において同署署長に対し、同会社の右事業年度の所得金額が四七万九、四九六円でこれに対する法人税額が一三万四、一〇〇円である旨の虚偽の法人税の確定申告書を提出し、もつて同会社の右事業年度の正規の法人税額と右申告税額との差額二二四五万九、一〇〇円をほ脱し

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一、被告人朱尚烈の当公判廷における供述

一、被告人朱尚烈の大蔵事務官に対する昭和五一年一月二一日付(第一回)、同年二月四日付、同月五日付、同月六日付、同月七日付、同月二〇日付、同年六月二日付、同月三日付、同月七日付、(第二回)各質問てん末書

一、被告人朱尚烈の検察官事務取扱検察事務官に対する昭和五一年一一月九日付、同月一二日付(二)、検察官に対する同月三〇日付、同年一二月一日付各供述調書

判示第一の一、二の各事実につき

一、被告人朱尚烈の大蔵事務官に対する昭和五一年一月二一日付(第二回)、同年五月二一日付、同年六月四日付各質問てん末書

一、被告人朱尚烈の検察官事務取扱検察事務官に対する昭和五一年一一月一〇日付(二通)、同月一一日付(一)各供述調書

一、大蔵事務官大高慶一郎作成の告発書

一、高橋鶴子(三通)、佐藤金十郎、高橋光子、石川冨喜子(二通)、松岩文秀の検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書

一、被告人朱尚烈作成の昭和五一年六月三日付上申書二通

一、塩釜市水道部長作成の水道料金等の照会に対する回答

一、仙台市水道事業管理者作成の昭和五一年二月二七日付水道料金等の照会に対する回答(一)、(二)、(三)

一、被告人朱尚烈作成のスタートルコの簿外給与及び賞与についてと題する書類

一、高橋鶴子の大蔵事務官に対する昭和五一年五月一〇日付、同年四月一四日付各質問てん末書

一、被告人朱尚烈の「事業所得の簿外経費について」「減価償却費と減価償却資産の除外損、雑損失及び譲渡損損失について」「不動産所得の経費について」

一、遠藤光一、五十嵐和三郎作成の各上申書

一、斉藤喜一作成の取引内容照会に対する回答書二通

一、仙台市長作成の固定資産税の納付状況照会に対する回答書二通

一、大蔵事務官作成の不動産所得調査書

一、菅原軍馬の大蔵事務官に対する昭和五一年三月一六日付質問てん末書

判示第一の一の事実につき

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和四八年度分)及び四八年度分の所得税の修正申告書謄本(一)

一、小野寺常蔵の検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書

一、押収してある建物賃貸借契約書一通(昭和五二年押第五二号の二-一)、売上明細書綴(同号の六)、領収書綴一二綴(同号の八-一乃至一二)、売上明細書綴(同号の一〇)領収書綴一綴(同号の一二)、出勤簿綴一綴(同号の一五)、金銭出納帳一冊(同号の一六)、売上メモ三枚(同号の一七)、 手帳一冊(同号の一九)、開店費用関係綴一綴(同号の二二)、四八年分の所得税の確定申告書一通(同号の二三)

判示第一の二の事実につき

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和四九年度分)及び所得税の修正申告書謄本(二)

一、砂金文子の検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書

一、大塚得男の大蔵事務官に対する供述調書

一、大蔵事務官作成の銀行預金及び受取利息調査書

一、白川高也作成の上申書

一、押収してある元帳綴一綴(同号の七)、領収書綴一綴(同号の九)、元帳綴一綴(同号の一一)、総勘定元帳一綴(同号の二〇)、四九年分の所得税の確定申告書一通(同号の二四)、安藤ビル関係書類綴一綴(同号の二五)、元帳綴一綴(同号の二六)

判示第二の一、二の各事実につき

一、被告人朱尚烈の大蔵事務官に対する昭和五一年一月二二日付(第一回)、同日付(第二回)、同年三月一〇日付、同月一一日付、同月一二日付、同年五月一八日付、同月一九日付、同年六月五日付(第一回)、同日付(第二回)、同月七日付(第一回)各質問てん末書

一、被告人朱尚烈の検察官事務取扱検察事務官に対する昭和五一年一一月一一日付(二)、同月一二日付(一)各供述調書

一、大蔵事務官作成の昭和五一年七月一日付告発書

一、須賀弘子の検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書

一、被告人朱尚烈作成の収入金額(売上金額)についてと題する書面

一、仙台市水道事業管理者作成の昭和五一年二月一五日付水道料金等の照会に対する回答書

一、木村勲、朴展子の検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書

一、安藤秀雄こと被告人朱尚烈作成の「三星観光株式会社の簿外給与及び賞与について」「三星観光株式会社の簿外経費について」

一、木村勲の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、安藤秀雄こと朱尚烈の「三星観光株式会社の簿外一般経費について」

一、小林速夫、許泰圭の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、渡辺義正作成の取引内容についてと題する書面

一、牧田武久、小山昭喜作成の各取引内容照会に対する回答書

一、大蔵事務官作成の三星観光株式会社の銀行預金等調査書及び銀行調査書

一、三星観光株式会社の商業登記簿謄本

判示第二の一の事実につき

一、大蔵事務官作成の昭和五一年六月七日付脱税額計算書(一)

一、大蔵事務官作成の法人税の修正確定申告書写(一)

一、朱京子の検察官事務取扱検察事務官に対する昭和五一年一一月二五日付供述調書

一、佐藤努、佐々木泰男作成の各上申書

一、押収してある従業員食事代出納帳一冊(同号の一)、ノート一冊(同号の三)、給料受領証綴一綴(同号の四-三)、御招待券二九袋(同号の五-一乃至二九)、日計票綴一綴(同号の一三)、給料袋綴一綴(同号の一四)、日記一冊(同号の一八)、総勘定元帳二冊(同号の二一-一、二)、開店費用関係綴一綴(同号の二二)、領収証二枚(同号の二七)

判示第二の二の事実につき

一、大蔵事務官作成の昭和五一年六月七日付脱税額計算書(二)

一、大蔵事務官作成の法人税の修正確定申告書写(二)

一、朱明子(昭和五一年一〇月二九日付及び同年一一月一七日付)、片平忠、山川嘉一(昭和五一年一一月一三日付)、諏訪秀幸の検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書

一、佐々木美徳作成の昭和五一年四月一四日付水道料金の照会に対する回答書

一、大蔵事務官作成の昭和五一年六月五日付未納事業税額計算書

一、押収してある金銭出納帳一冊(同号の一六)

(弁護人の公訴棄却の申立に対する判断)

弁護人は、被告人三星観光株式会社は、実質的には被告人朱尚烈の個人会社にすぎないものであるから、このような場合にまで法人税法一六四条一項により行為者のほか法人をも処罰するのは、事実上行為者である被告人朱尚烈が二重に処罰されることとなり憲法三九条に違反するので、被告人三星観光株式会社に対する公訴は棄却されるべきである旨主張する。しかしながら、右のいわゆる処罰規定は、租税に関する違反があつた場合に、その処罰の効果的実現を期するため、その行為者である代表者または従業者のほかその法人に対して罰金刑を科する旨を定めたものであつて、その対象を異にし、もとより二重処罰の禁止にふれるものではなく、違憲ということはできない。この理はたとえ当該法人がその代表者のいわゆる個人会社的な存在であるとしても、現に代表者自身とは別に法人たる会社として営業活動を行い、且つまた納税行為をなしている以上、なんら別異に解すべき理由はない。よつて弁護人の右主張は失当であり、本件公訴はこれを棄却すべき場合には該らない。

(法令の適用)

判示事実 第一の一、二につき各所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号、第二の一、二につき各法人税法一五九条一項、七四条一項、一六四条一項

刑の選択 被告人朱尚烈につき第一の一、二につき各併科刑、第二の一、二につき懲役刑

併合罪 刑法四五条前段、被告人朱尚烈に対する懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(判示第二の二の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項、被告人三星観光株式会社につき同法四八条二項

被告人朱尚烈に対する労役場留置

刑法一八条

被告人朱尚烈に対する懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 立川共生)

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